北海道立近代美術館

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日本近代の美術

北海道の社会における「美術」の内面化と定着にとって、直接的で決定的な要因となったのは、近代日本における美術をめぐる諸活動であった。
当館では、北海道美術の幅広く、深い検証を主目的として、北海道美術の動向と関連する日本近代の美術も収集している。

令和4年3月末現在、「日本近代の美術」の収蔵作品数:505点

青山熊治《アイヌ》

(あおやまくまじ)兵庫県生まれ。東京美術学校(現・東京藝術大学)で油彩画を学ぶ。第4回文展(1910年)で3等賞、5回展で2等賞を得た後、旧満州とロシア経由でフランスに渡る。10年に及ぶ海外生活から帰国後、第7回帝展(1926年)において特選、さらに審査員になるなど活躍が期待されたが、46歳で急逝した。
作者は1907(明治40)年、東京美術学校の卒業制作のために北海道を訪れた。その時に虻田で制作を始め、後に大阪で完成させたのが本作である。初めて出会ったアイヌの人々を題材に、中央の炉を光源として光と影を強く対比したバロック的な明暗表現、円環状に人物を配した力強い男性群像など、若い青山熊治の意欲がうかがわれる。第13回白馬会展に出品され、最高賞の白馬賞を受賞した。

青山熊治 1886-1932(明治19-昭和7) 《アイヌ》 1910(明治43)年 油彩・キャンバス 150.0×188.0cm 左上に 二千五百七十年 青山熊治之写 購入(昭和50年度)

国吉康雄《横たわる裸婦》

(くによしやすお)岡山市に生まれ、1906(明治39)年17歳で渡米。同地で画才を見出され、ロサンゼルス、ニューヨークで苦学した後、戦前戦後にかけてアメリカ美術界の代表的画家として活躍した。当初、キュビスムやアメリカの民衆芸術から多くを学んだが、その後ニューヨークで知り合ったエコール・ド・パリの画家パスキンの助言により、描写の写実性を深めた。
本作はこうした画風の転換期に描かれた代表作のひとつ。独特の茶系の色調のうちに、物憂い表情をした半裸の女性が描かれており、パスキンからの影響をうかがわせる。背中に敷いた毛皮やストッキング、脱ぎ捨てられた靴などのモチーフは、女性の艶めかしさをより際立たせている。

国吉康雄 1889-1953(明治22-昭和28) 《横たわる裸婦》 1929(昭和4)年 油彩・キャンバス 101.6×203.2cm 右下にYasuo Kuniyoshi 1929 購入(昭和55年度)

桂ゆき《作品》

(かつらゆき)東京生まれ。日本画と油彩を学び、戦前から二科展の前衛グループ九室会に参加。戦後は二科展や、1946(昭和21)年の創立に参加した女流画家協会を舞台に、具象、抽象、コラージュなど前衛精神に満ちた制作を貫いた。特にコラージュについては、独自の発想による作品をすでに1935(昭和10)年に発表している。
本作は1979(昭和54)年の個展のために制作したコルク連作の1点。瓶の栓をくり抜いた後、立方体に加工されて貼り付けられたコルクは、まるで小さな生き物のようにざわめき、動き出すかのようだ。こうした表現の背景には、素材に対する作者の個性的な感覚があった。作者は幼い頃から流木や骨などを拾って集め、それらに自然界の生命を深く感じる女性であった。

桂ゆき 1913-1991(大正2-平成3)《作品》1978(昭和53)年 コルク・板 160.0×260.0cm 購入(昭和55年度)

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横山大観《秋思》

(よこやまたいかん)茨城県水戸生まれ。東京美術学校第1期生であり、岡倉天心に啓発されて日本美術院(院展)創立に参加。明治期の日本画革新を牽引し、大正から昭和にかけては画壇を代表する巨匠と評された。
本作は、第1回院展に大観が《屈原》(厳島神社蔵)、《月下帰牧》(所在不明)とともに発表した作品。主題の「秋思」は、秋のもの悲しい想いのことで、人物にも風景にもそうした心理描写の工夫が認められる。また、線描や余白という東洋の伝統的表現と、彩色による西洋的な空気感の表現とを融合させた意欲作であり、この後さらに没線描法を進めた「朦朧体」を予告する作風から、明治の日本画革新の歩みをたどるうえで貴重な1点と言える。長年行方不明であったが、札幌の個人の蔵から発見され、当館に寄贈された。

横山大観 1868-1958(明治元-昭和33) 《秋思》 1898(明治31)年 絹本彩色・軸 158.0×82.5cm 右下に大観[大観](朱文方印) 受贈(令和2年度、植田木材工業株式会社)

松岡映丘《花のあした》

(まつおかえいきゅう)兵庫県生まれ。橋本雅邦、山名貫義に師事した後、東京美術学校(現・東京藝術大学)で日本画を学んだ。大正から昭和初期にかけて新興大和絵運動を展開し、近代日本画に新古典の境地を開いた。
本作は、今に生きる女性をモチーフに描きながら、古典的画趣を失わず、清新さとたおやかな色香をたたえた秀作。明かり障子を開けて外を見る女性。そのしどけない姿と、袷の青が印象的だ。室内にのぞきみえる香水瓶や化粧瓶が置かれた鏡台、雨上がりの濡れた屋根、花びらを散らす桜に赤い椿。女性をとりまく情景は、何かしらのドラマを感じさせ、見るものに静かな余韻を残す。

松岡映丘 1881-1938(明治14-昭和13) 《花のあした》 1933(昭和8)年 絹本彩色・軸 93.0×135.0cm 右下に映丘写於常夏荘[天瑠](朱文方印) 購入(昭和52年度)