ヨーロッパ版画
アルブレヒト・デューラー《聖エウスタキウス》
ドイツ・ルネサンスを代表する画家・版画家。ニュルンベルクに生まれ、イタリア・ルネサンスの人文主義的教養を身につけるとともに遠近法、人体比例の理論を研究。ルターによる宗教改革が開始されるなど激動の時代を生きた。
この大判の銅版画の主題は、古代ローマ帝国のトラヤヌス帝(在位98-117年)に仕えた将校で、後に狩人の守護聖人となった聖エウスタキウスである。
狩猟中に出会った牡鹿の角の間に、キリストの磔刑像が現れたのをみてキリスト教に改宗した。
画面手前にはエウスタキウスが狩猟に際し伴った馬と犬が配されている。自然や人間の徹底した観察に基づいた細密描写が目をひく。
アルブレヒト・デューラー 1471-1528 《聖エウスタキウス》 1501年頃 エングレーヴィング・紙 35.7×25.9cm 中央下にAD(Monogramm) 購入(昭和54年度)
ウィリアム・ブレイク《『ヨブ記』 第14図 明けの星が相共に歌う時》
イギリスの画家・版画家・詩人。ロンドンに生まれる。銅版画家ジェイムズ・バザイアの工房に入って修業する。徒弟時代にウェストミンスター寺院で中世イギリスの遺物を模写、ゴシック美術から影響を受ける。22歳で独立、ロイヤル・アカデミーに通い、アカデミーの展覧会に水彩画を出品。また進歩的な文学サロンにも出入りし、詩作にも励んだ。自作の詩に挿絵をつけ版画にした彩飾本を制作。
『ヨブ記』は銅版画による挿絵集で、1826年、ロンドンで出版された。扉絵を含め全22図によって構成され、本図の周囲には旧約聖書ヨブ記を中心に新約と旧約の両聖書からの言葉の引用と装飾風の図案が付けられている。その精緻な版画技法と独自のヴィジョンはブレイク芸術の真髄である。
ウィリアム・ブレイク 1757-1827 《『ヨブ記』第14図 明けの星が相共に歌う時》 1823-26年 エングレーヴィング・紙 19.1×14.9cm 購入(昭和55年度)
エドワルド・ムンク《病める子》
ノルウェー生まれ。オスロで教育を受けた後、ドイツやフランスなどヨーロッパ諸国を遍歴。後期印象派やナビ派など世紀末美術を広く吸収し、後にドイツ表現主義に大きな影響を与えた。
当館では、ムンク最初の版画集『マイアー=グレーフェ・ポートフォリオ』全8点のうち5点を収蔵している。
《病める子》はその1点で、最初は油彩で制作され、《接吻》や《叫び》などを含む《生命のフリーズ》連作に先行するものとなった。
クッションを背にした病床の少女は死に瀕し、かたわらの婦人は彼女の手を握りしめ悲嘆にくれている。画面下の風景は、対照的に自然の生命力を示唆する。作者の姉は15歳の時に結核で亡くなったが、その体験が反映された作品である。
エドワルド・ムンク 1863-1944 《病める子》 1894年 ドライポイント、ルーレット・紙 38.7×29.2cm 購入(昭和54年度)