出品作品解説(「おかえり好太郎さん 豊平館へ」展関連資料)
mima 移動美術館2026 in 豊平館
おかえり好太郎さん 豊平館へ -95年目の個展-
出品作品解説 (作品はすべて北海道立三岸好太郎美術館蔵)
《花》1932(昭和7) 油彩・キャンバス ※1932年個展出品作
-花と黄色を愛した画家の作品-
花瓶の花を描いたこの油彩画は、1932(昭和7)、豊平館で開催された三岸好太郎個展に出品された。黄色を主調に、赤や青、緑が華やかに混じり合い、画家の優れた色彩感覚をみることができる。
好太郎は黄色を好んだといわれ、この作品を制作した1932年には、黄系の背景色を効果的に用いた数々の作品を手がけている。各々の草花を単純化した奔放な描写と華やかな色彩表現によって、植物の軽やかさとその生命感が強調されており、表面的な写実を超えて独自の表現を生み出そうとした作者の個性をみることができる。
《花ト蝶》1932(昭和7) 油彩・キャンバス ※1932年 個展出品作
-数奇な運命をたどった代表作-
1932年の個展出品作品。背景に、トーンの異なるベージュ、黄色や白などを縦方向にほどこし、高く盛られた花々が描かれる。左上方にはカスミソウ、上部中央にはデイジー、上部右側には白百合など花の種類も豊富だ。画面右側には、花にひき寄せられたかのような一頭の蝶。2年後の1934(昭和9)年に好太郎が発表する「蝶と貝殻」の連作に先駆ける蝶モティーフの作品として重要な作例。
本作は北海道大学に飾られていたが、学園紛争の際に失われることを憂慮した学生たちが、北海道立美術館(三岸好太郎記念室)に保管を依頼し、後日正式に同学から寄贈された逸話が残る。
《金蓮花》1932(昭和7) 油彩・キャンバス ※1932年個展出品作
-新たな表現の萌芽となった作品は、街の社交場で長らく親しまれた-
やや暗い灰水色の地に、すっと青緑色の線をひくことで、花瓶が置かれた空間を端的に表現している。花瓶にさされた花の表現も奔放だ。茎は簡略化した線でのびのび表現し、花や葉と思われる部分は、筆の刷毛目をあらわに残す、渦巻くようなタッチで表現されている。好太郎の自在な筆触を通して、植物の生き生きとした生命感が感じられる。花瓶のふくらんだ部分にただひとつ置いた白い絵具により、ガラスと思われる花瓶の輝きを巧みに表現している。
この作品はかつて製菓会社、札幌千秋庵の喫茶店の壁を飾っていたことがわかっている。
《面の男》1928(昭和3) 油彩・キャンバス
-豊平館で個展を開催した頃、三岸好太郎がくりかえし描き続けた画題-
1932年の豊平館の個展出品作《少年道化》の連作であり、人物描写と質感表現が類似する作品。共に1929年の春陽会第7回展に出品された。
暗色を背景に赤い衣装を着た人物像は画業初期から続く表現。新たな試みとして、速度を感じさせる幅広の筆触がみられ、首元のレースや胸から腕にかけての衣装のひだの部分に、白に近いピンクを勢いよくほどこし、地の赤と対照させ、光や量感を見る者に感じさせている。顔は白塗りの面の中に見える瞳に白をほどこし、意志を感じさせる表情がみえる。
「道化」連作は、画業初期に取り組んだ象徴的な人間像を脱して、実在感をそなえた人間表現を切り開くとともに、多様な造形的実験を試みる舞台となった。
※参考図半《少年道化》1929(昭和4) 東京国立近代美術館蔵
《大通公園》 1932(昭和7) 油彩・キャンバス
-かつて豊平館が所在した場所の光景-
札幌、大通公園から東を眺める視点で描かれている。画面の左手には、当時この場所に所在した豊平館の庭の木立が広がり、中央には現在のテレビ塔付近の創成川べりに建っていた消防本部の望楼が見える。望楼の右下に描かれているのは、《大通教会》のモティーフ、札幌組合基督教会(建物は現存せず、現・札幌北光教会)。
大通公園から望楼を望む景観は、好太郎お気に入りの場所であった。好太郎は望楼を「巨人」と呼び、「白亜の豊平館を中心とするあの付近一帯の風景を僕はたのしみにステーションにおりる」(『東京日日新聞』北海道樺太版1932年9月11日)と記している。
《水盤のある風景》 1932(昭和7) 油彩・キャンバス
-昭和初期、豊平館の近くには噴水がありました。-
モティーフとなる水盤は、1931(昭和6)年の「国産振興北海道拓殖博覧会」の際に中島公園内に設置された、飲料水を吹き出す噴水。現在の札幌コンサートホール正面広場付近に所在したと推定される。横長の画面に大きく水盤のみを堂々と配し、周囲はスピード感のある筆致で簡略にあらわし、水盤のモニュメンタルな存在感が強調されている。
地平線は低い位置に設定し、空を広くとる構図。淡紫色やブルー、褐色などの上に、下の色彩が見え隠れするようにホワイトをほどこし、複雑なニュアンスのある色彩をうみ出している。愁いを含む北国の晩秋を情感豊かに描いている。
《植物園》 1932(昭和7) 油彩・キャンバス
-水面に映る光景の表現に注目-
本作で描かれているのは、北海道帝国大学(現・北海道大学)農学部附属植物園の、湧き水が流れ込んでできた池。樹木は黒いシルエットのようにあらわし、池畔の土手様の部分と合わせて、暗い色調でまとめている。対照的に、水面は明るい水鏡として表現され、樹木や池畔の緑を映し出している。
この時期、好太郎は《海》の連作に見られるように、水平線を画面の中心近くに置く構図にしばしば取り組んでおり、本作もまた、そうした作例のひとつといえる。
発表当時、NHK札幌放送局の部長・落合守平が《水盤のある風景》とともに本作を購入、同局の壁を飾っていたことがわかっている。

